草食動物である乳牛が摂取する飼料の栄養価を評価するには、草に含まれる繊維の評価は避けて通れません。歴史的に見ると様々な繊維評価方法が考案され、20世紀中頃までは「粗繊維」という区分が使用されていました。しかしながら文字通り「粗」繊維なため、牛が利用出来る区分、利用できない区分を正確には把握しきれていませんでした。
ここに一人の天才が現れます。Peter Van Soest博士です。
ルーメン微生物による消化が遅い区分を、数値化する方法を開発しました。デタージェント液を利用することで、抽出部分を可溶性、残渣部分を非可溶性に分け、後者をNeutral Detergent Fiber(日本語では中性デダージェント繊維と訳される)と名付けました。
これによって「粗く」しか把握できなかった繊維の消化率が、高い精度で数値として捉えられるようになったのです。
Van Soest博士が1991年に発表したNDFに関する論文は、Journal of Dairy Scienceおける過去すべての論文の中で引用回数が最多となりました(下図、2015年時点)。2番目、3番目の最多引用論文とは圧倒的な差が認められます(ちなみに、3番目の論文はBauman博士によるホメオレシス理論です)。
現在では、科学論文の評価を様々な機関が実施するようになったため、Journal of Dairy Scienceは独自に分析しておりませんが、恐らく、酪農科学分野での累積引用回数は、最多を維持していると思われます。
この一点を見ても、同博士が酪農産業に与えた影響を推し測ることが出来ます。
NDFの分析方法も進化してきており、様々な研究者によって、NDF、NDR、aNDF、と改良を重ねられた結果、現在は「aNDFom」という評価値が、CNCPSの最新バージョンで使用されています。
しかし出発点はNDFであり、その開発が無ければCNCPSの発展もなかったと言っても過言ではありません。さらにVan Soest博士の素晴らしいところは、体調を崩され郊外の一軒家にお一人でお住まいながらも、繊維評価の不完全性を常に意識し、教えを請いに訪れる多くの学生や研究者に指南をし続け、世の中への発信を怠らなかったことです。
2021年3月21日にPeter Van Soest博士はお亡くなりになりました。心からご冥福をお祈りいたします。
Journal of Dairy Scienceのウェブサイトより